シャケは案外利口だった
シャケが我が家の一員になりたてのころ、僕は、シャケのことをバカだと思っていた。
それはシャケがあまりに野性的だったからで、そのせいで僕は、こいつはとんでもないバカだと思ってしまったのだ。
ミュウが猫としての自覚がまったくなく、人間の食べ物などにも興味を示さず、キッチンに猫が好きそうな魚料理などを置いていても、料理の匂いをちょっと嗅いだ後、フンっと鼻を鳴らして、くるりと向きを変え遠ざかっていくような淡白な性格なのに対し、シャケときたら、隙あらば何でも食ってやるというゴリゴリのスタイルを体現し、かつ、その辺に置いてあるものは全部食う!というギンギンの意思もその小さな体(当時)から発散させており、シンクの排水口に頭を突っ込んで、ポンデライオンのコスプレをするなどの暴挙に出ていたからである。
”こいつはバカだ。”
僕はそう思った。
しかしシャケは、意外とデリケートな面も持ち合わせており、見知らぬ来客などがあると、ソファの下やタンスの上に安全圏を見出し、そこに身を潜めることで自己防衛はきっちりやる、という、なかなか侮れない雰囲気も漂わせていた。
野良時代に怖い思いをしたことによる学習能力からなのだろうが(あくまでも予想)、なにも考えず、強引かつ無闇にグイグイくる性格ではないというのは見かけによらず、最初からあった。
そういうデリカシーのようなものが、我が家の生活に馴染み食事の心配をする必要がなくなるにつれ、徐々に普段の生活でも少しづつ品格っていうの?そんなようなものが滲み出てきた。
毛づくろいは元来頻繁にしていたが、当初ざらつき感があった毛並みが、今ではつるっつるになっている。
また、あれほど常に飢え、がつがつしていた食に対する貪欲さもすっかり落ち着き、食べ物であれば何でも喰らう!といったようなギラギラ感も消えた。
また、シャケボールを投げてやると、それを咥えて僕のところに持ってくるという猫らしからぬ行為もするようになったのである。
”こいつは案外利口かもしれない。”
僕はそう思うようになった。
そう思うようになると、なぜか顔も利口そうに見えてくるから不思議だ。
眠そうな顔やイタズラをする時の顔は相変わらず面白いが、それも可愛く見えてくるからほんとに不思議だ。
きっとそれが愛なんだろうね。
そう思った55歳おっさんの冬。
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