猫の捻挫
洗面所のほうからなにか重たいものが落ちるような、ドスンという音がした。
その音を聞いて僕は、”ああ、ミュウが洗面台から飛び降りたんだな”、と思った。
ミュウは洗面台の蛇口から直接水を飲むのが好きだが、ミュウは自分でジャンプして洗面台に飛び乗ることができない。なぜなら太りすぎているからで、だから、ミュウは洗面台で水が飲みたい時は、洗面台の前でじっと誰かが来るのを待っている。
洗面台の前に座っているミュウに気付いた僕たちは、ミュウを洗面台に乗せて水道の蛇口を少しだけ開けて水を細く出す。するとミュウはその水を美味しそうに飲むのである。
ミュウが水を飲み始めると、僕たちは洗面台を離れるのだが、それは、ミュウは洗面台から飛び降りることはできるからである。さきほどのドスンという音は、ミュウが水を飲み終えて、洗面台から飛び降りた音だったのである。
ミュウは太っているから、猫のくせに軽やかに飛び降りるということができないのである。
ドスンという音がしてややして、リビングに歩いてきた ミュウを見て僕は”おや?”と思った。
なんか歩き方が変じゃない?
それは、ミュウが右前足ををひょこひょこしながら歩いていたのである。
驚いた僕はすぐに、こういう場合の対処法をgoogle先生に聞いてみた。すると、”ただの捻挫であれば、3日ほどで回復するが、骨折が疑われる場合は病院に行け”、と教えてくれたので、とりあえず様子を見ることにしたのだが、幸いにもミュウはただの捻挫だったようで、5日ほどで回復して普通に歩けるようになって、僕たちは安心したのだった。
それからは、ミュウが洗面台で水を飲みたがっている時は、ミュウを洗面台に乗せて、水を飲み終えるまで見ておいて、飲み終わったら洗面台から降ろしてやる、という流れになったのである。
まあ、それはいいんだけど、僕が改めて思ったのは、”ミュウも年をとったなあ”、ということで、”こうやって年々、それまで普通にできていたことができなくなっていくんだろうなあ”、ってことで、なんとなく寂しい気持ちで毛づくろいをしているミュウを見ていると、そんなミュウに向かってシャケが一緒に遊ぼうと容赦なく飛びかかっていくのだった。
年を重ねて徐々に身体が重くなり、1mもない高さから飛び降りて捻挫してしまうミュウと、若いエネルギーを発散したくてしょうがなくて、2mの高さから飛び降りても平然としているシャケ。
年をとるということは、ある意味残酷でもあるが、自分自身を振り返ってみると、若さというのもなにかと厄介だったような気がする。年をとることでいろんなことが気にならなくなり楽になる、ってこともあるのである。
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