ミュウが教えてくれたこと
思い込みが激しい人を見ると、”ダッセー!”などと思っていた。この世には無数の価値観があるにも関わらず、それらに気付いているのかいないのか知らないが、そういったものに一切目を向けようとせず、これまで、どれほど多くの経験を積んできたのかも知らないが、自分の価値観というものを(なんの根拠があるのかは不明だが)盲目的に信じ込んで、自分の価値観に沿わないことには批判的な態度で傲然としている、そんな人を見て、”ダッセー!”などと思っていたのである。そして、僕はそんな厚顔無恥でダサい人間にはなりたくない!と思い、そうならないように気をつけて生きてきた。つもりだった。
では、どのように気をつけてきたのか、というと、僕は子供のころから、”人を見た目で判断してはいけません。”、と言われて育ってきた。
僕が子供のころというのはまだ空地などがあって、そこで友達とキャッチボールをするなどして遊んだりしていたが、キャッチボールのボールが逸れて他家の板壁に当たり、背中に綺麗な絵が描かれてある中年男性が出てくる、などということがあった。その背中に絵が描かれている中年男性は明らかに僕の周囲にいる大人とはちょっと違うオーラを発しておりちょっとヤバいのかな、などと感じたのであるが、そこはほら、人を見た目で判断してはいけません、なのであるから、僕は、大きな声で、”すみませ~ん!”、と謝ったのであるが、その中年男性は、”こらー!このガキー!”、などと僕たちに向かって声を張り上げて追いかけてくるなどするので、僕たちは、赤塚不二夫のマンガのように足をぐるぐる回転させながら逃げるということなどがあった。
ねっ、このように、僕はダッサい人にならないよう細心の注意を払いながら生きてきたんですよ、と思っていたわけであるが、先日のシャケの入退院により、それが間違いであることをミュウから学んだのである。
僕はこれまで、ミュウはシャケのことが嫌いである、と思い込んでいた。その理由としては、シャケがミュウのそばに行き、ミュウをぺろぺろ舐めて毛繕いの手伝いをしたり、気持ちよく寝ているミュウに急に飛びかかっていったりした際、ミュウが、”シャー!”、なんつって、シャケに左ジャブの後、右ストレートを見舞ったりするのを見ていたからで、つまり僕は、ミュウのそんな行動から、つまり見た目から、自分勝手な価値観により、”ミュウはシャケのことが嫌いである。”、と判断していたのである。
妻と僕が、シャケを病院に預けて二人だけで帰宅すると、ミュウはしばらく玄関の辺りの匂いを嗅いでいた。いつもはそんなことはせず、ちゅーるを貰おうとさっさと僕たちを先導して歩いていくのに一体なにをしているのかな、と不思議に思ったものである。
その後も、洗濯物を取り込もうと妻がベランダに出ると、ミュウもササっとベランダに出る。ミュウがベランダに出るのは珍しいことではないが、この時はベランダでなにかを探しているようでしばらくうろうろとしているようだった。
また、僕たちが買い物に出ようと玄関で靴を履いていると、ミュウが玄関の前に座ってドアが開くのをじっと待っており、これまでミュウがそんな行動をとったことは一度もないので不思議に思いながらドアを開けると、やはりそれを待っていたと思われるミュウは、ササっと玄関からマンションの通路に出て、周囲の状況をザーっと確認した後、再びササっと家に入ってきたのである。
そして、いつもであれば一日中寝て過ごすミュウが、やたらと家の中をうろうろと歩きまわり、あちこちのフロアをくんくんと嗅ぎまわるなどして、なんとも落ち着かないのである。
ミュウのこの一連の行動は、明らかにシャケを探しているものである、と言っていいと思う。つまり、『ミュウはシャケのことが嫌いである』というのは誤りで、『ミュウはシャケのことが好きである』と僕は認識を改めたのである。つまり、僕は、自分の勝手な価値観でしかミュウのことを見ていなかったということで、僕は、ダッサい男だったのである。それをミュウが教えてくれた。
ミュウ、ごめんなさい。そして、ありがとう。もっと精進します。
シャケが帰宅した際、ミュウは玄関でシャケの匂いをしばらく嗅きながら、なにかを確認しているようだった。そして、なにかを確認した後、ミュウは僕たちを先導してリビングに歩いていったのである。きっとシャケが帰ってきて、ミュウも安心したんだろう。ほんとは優しいやつだったんだね。
そのミュウの背中は、”人を見た目で判断するなよ。”、そう言っていた。
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