シャケとクー(とミュウ)のぬくぬく日記

仲良く喧嘩するシャケとクー(とミュウ)の日記

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猫と自己崩壊(軽め)

僕と妻はなにかと趣味が合わないことが多い。

二人とも映画が好き、というところは共通しているが、観たい映画はまったく違う。

また、二人とも音楽が好き、というところは共通しているが、聴きたい音楽はそれぞれ違う。そんな感じである。

 

そんな二人が以前から話をしていることのひとつに、『年を取ったら便利な街中に住みたい』ということがある。

 

今住んでいるところが特段郊外で不便というわけではなく、福岡市の中心部までクルマで15~20分程度、電車やバスでもアクセスできるという比較的便利な立地ではあると思うが、もっと街中の、福岡市の中心部まで徒歩で行けて、地下鉄の駅などがすぐ近くにありクルマを所有する必要がないようなところ、そういうところに住みたいという共通の希望があるのである。

そして、その住みたい街中のエリアというのも共通しており、僕たちにしてはぴったりと趣味が合う稀有な案件である。

しかし、希望はあってもお金はない、というのが現実であるため、実際に物件を見に行くなどの具体的な行動は起こしていなかったのだが、あるキッカケがあり、ある物件を見に行くことになったのである。まあ冷やかしではある。

 

その物件とは、僕たちが共通して希望しているエリアに建っている中古マンションで、不動産屋の担当者さんとは電話で待合せの時間などを事前に決めておいた。

 

物件視察当日、目的のマンション近くのコインパーキングにクルマを停め、マンションの入口に行ってみるとそこに一人の男性が立っており、その男性と目が合うと男性の方から、”サケノミーさんですか?”、と声をかけられた。事前に連絡をしていた担当の営業の人なのだなと察した僕は、”はい”、と答え、お互い、”今日はよろしくお願いします。”などという挨拶をした後、さっそくエレベーターに乗り込み部屋を見せていただくこととなった。

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 部屋の前まで到着すると、担当者さんがインターホンを押しながら、”オーナーさんがいらっしゃいますので。”と言うので、”オープンルームなのだな。”と納得、すると、すぐに玄関のドアが開き、”おじゃましまーす。”、なんつって僕たちは室内に入ったのである。

 

”なんちゅう、おしゃれな部屋なんや!”

部屋に入ってすぐ、僕は心の中で叫んだのである。

壁はビニールクロスなどではなく珪藻土で塗られ、床も木材が使われており、壁には素敵な絵がディスプレイされている。

照明もシーリングライトは一切なく、間接照明およびフロアに置かれてそこから大きなアールを描くアームの先端に照明が取り付けられているという巨大でスタイリッシュな照明器具が部屋全体をいい感じの雰囲気に照らしている。

浴室も、なにかの映画で観たことがあるような浴槽がでーんと鎮座しているし、トイレも通常設置されているはずのペーパーホルダーは見当たらず、なんかオブジェのようなものにトイレットペーパーが掛けられているなどして、ことごとくおしゃれ。その部屋のおしゃれな雰囲気に圧倒された僕は、”どんだけ~!”とこっそりクチパクした。

そしてなにより良いな、と感じたのが、収納の多さで、それがまたおしゃれな感じに収容物が目につかないように工夫されているのである。

とにかく、ちょっとしたひとつひとつの細部までこだわり抜かれており、下世話な表現をすると、”金かかってんな~。”という印象であるが、それが下品ではなく、逆にすこぶる上品な印象を受けるのはオーナーのセンスということだろう。

センスってすごい。そしてこわい。

 

この部屋について一通り説明を受け、質疑応答などをした後、”では、次の部屋にご案内します。”ということになって、再び僕たちはエレベーターに乗り、次に案内された部屋に入ったのである。

その部屋は既に空部屋で、室内は完全リノベーション済であるが、先程の部屋と比べると、極めて普通という印象。しかし、よく見ればシンプルにまとまった内装で悪くはない。

そこで、担当者さんからひとつひとつの部屋についての細々とした説明を聞いている時、突然、僕の僕の携帯電話の呼び出し音が鳴り出した。

 

ディスプレイを見ると登録していない電話番号が表示されている。つまり、知らない人からの電話であるが、呼び出し音は鳴り続けている。

”出ないわけにはいかない”、と判断して僕は電話に出た。

電話に出ると、”サケノミーさんですか?”との問いかけがあり、僕は素直に、”はい”、と答えた。

すると、”〇〇不動産の〇〇ですが、今マンションの部屋の前で待っています。どちらにいらっしゃいますか?”、との問いかけ。

軽く思考が混乱しながらも、”今、マンションで部屋を見てますけど?”と答えると、電話の相手は、”えっ?今、待ち合わせの部屋の前にいるんですけど?”、と言う。

思考の混乱が大きくなりながら、僕は、”ちょっと待ってください。”、と言い、今まで部屋の説明をしてくれていた担当者さんに、”あの〜、今、不動産屋の担当者さんが部屋の前で待ってるという電話なんですけど?”、と聞いてみると、その担当者さんが僕に聞いた。

”あなたはサケノミーさんですよね?”

 

ここで僕は軽くパニック状態に陥った。酒を飲んでいるわけでもないのに足元がぐらついた。

”俺はほんとにサケノミーなのか?もしかしたら俺は俺ではない別人なのかもしれない。俺は遂に狂ったのか?ここは浮世ではなくあの世で、俺は今、死んでいるのか?でも、妻が横にいるということは妻も一緒にあの世に来たのか?となると、ミュウとシャケの世話を誰かにお願いしないといけないではないか!そして、俺はまたお口まわり玉ねぎ隊に入隊するのか!”、みたいなことを0.45secくらいの間に考えたのであるが、なによりも情けないのは、こういう時、100%の自信を持って、”俺は俺だ!サケノミーだ!”、と答えることができなかったことで、一瞬ではあるが、ほんとに自分が誰なのかがわからなくなるのである。

自分が自分であるという極めてシンプルなことが、たとえ一瞬のことであっても信じられない、それはおそろしいことであった。

 

しかし、なんとか平静を取り戻した僕は、”はい、サケノミーです。”、と震える声で答え、電話の相手が待っている部屋の号数を聞き、とりあえず今からそこに行く、ということを伝え電話を切った。

 

電話を切ると、今まで部屋の案内をしてくれていた担当者さんが手帳を開き、”サケノミーさんの携帯番号ってこれですよね?”、と問いかけてきたのでその手帳を見ると、それは僕の携帯番号ではなかった。

つまり、僕と担当者さんとはなんの約束もしていない、ただ同じマンションに居合わせただけの間柄だったわけだが、その二人がなぜ、担当者と客という関係になってしまったのか、それは、その担当者さんのお客さんと僕が同姓だったからである。

 

最初に、”サケノミーさんですよね?”、と聞かれたとき、それが苗字だけだったため、僕も素直に、”はい”、と答えたわけで、そもそもの間違いはそこから始まっていたのである。

思い返せば、案内された部屋の号数が違っていたり、”今日は〇〇からお越しですよね?”、と質問された時、”いえ、〇〇からです。”と答えたり、と、微妙に食い違いはあったのだが、思う込みというのはこわい。名前(苗字)が合ってる、というだけで、しばらく一緒に部屋を見ながら会話をしていたのである。

 

その後、僕たちは本来の担当者さんといろいろと話をした後、そのマンションを出たのでるが、妻と、”なんだか不思議な体験だったね~。”、などと話しながら歩いていると、人違いだった担当者さんから携帯に電話がかかってきて、その用件が、”これから事務所でいくつか物件を紹介したい。”とのことだった。

僕たちは了承し、その事務所でいくつかの物件を見せていただいたのだが、人生というのは、こんな些細な間違いから大きく動き出したりするのかもしれないなあ、などと思うのだった。

 

今回見たマンションはペット不可だった。

しかし、妻は、”ミュウとシャケは完全室内飼いだから誰にもバレることはない。だからこっそり連れていく!”、と言っていた。

でも、その前に先立つものがないのである。

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